【11】囚人のジレンマ
社会人であるかどうかを問わず、人は人生においてさまざまな「意思決定」を行う。しかも、「きょうのランチは~を食べよう」、「明日は散髪に行こう」、「きょうはもう寝よう」など、日常生活のあらゆる場面で人は意思決定を行う。
経済的な活動においても企業をはじめとする組織体はその構成員を通じて何らかの意思決定を行う。この場合にどのような意思決定が行われることになるのか、またどうすることが最善なのかについて考えるフレームワークが存在する。いわゆる「ゲーム理論」というものだ。
「ゲーム理論」は数学者ジョン・フォイ・ノイマンが提唱した理論で、代表的な例として最も有名なものが「囚人のジレンマ」である。簡単に言えば、次のようなものである。
ある人が何らかの選択(意思決定)を求められた場合に、自分と相手にとって最適な行動と何かを決めるための考え方である。
人は誰しも自分が有利な状況になりたいと思っている。しかし、ビジネス活動において、自分ばかりがいつも有利な状況を目指そうとすると、限られたパイを奪い合うように相手を不利に追い込むことになる。そうすると、交渉不成立となり、ビジネスはうまくいかない。そこで、ゲーム理論が登場することになる。
さて、「囚人のジレンマ」を具体的に説明してみよう。
ここに、ある犯罪で逮捕された2人の容疑者鈴木と佐藤がいるとしよう。2人はお互いに全くコミュニケーションを取ることができない状況でそれぞれが取調室にいる。そして、刑罰は次のように決められることになっている。
*鈴木が自白し、佐藤が自白しない場合、自白した鈴木は無罪、自白しなかった佐藤は懲役10年
*佐藤が自白し、鈴木が自白しない場合、自白した佐藤は無罪、自白しなかった鈴木は懲役10年
*鈴木・佐藤ともに自白しない場合、どちらも懲役2年
*鈴木・佐藤2人ともに自白した場合、どちらも懲役7年
このような設定になっている。これによれば、鈴木・佐藤両者にとって最も有利なのは、自分だけが自白し、相手は自白しない場合になる(自分は無罪、相手は懲役10年)。しかし、もし相手も自白すると、必ず有罪(懲役7年)になってしまう。
かりに、どちらも自白しなかった場合は、有罪にはなるが、懲役は最も軽くなる(懲役2年)。また、鈴木・佐藤ともに、自分の利益だけを求めて自白すると、自白しないという選択肢を取るよりも長い懲役7年になってしまうのである。
佐藤 黙秘 | 佐藤 自白 | |
鈴木 黙秘 | ー2 ー2 | ー10 0 |
鈴木 自白 | 0 ー10 | ー7 ー7 |
少し話はややこしくなるが、鈴木と佐藤はお互いに意思の疎通ができない状況にある。そういう中で、どの選択肢を選ぶべきか、というのが「囚人のジレンマ」のミソである。繰り返すが、鈴木も佐藤も、無罪になりたいという自分の利益だけを考えて行動してしまったら、お互いが協力し合った場合よりも状況は悪化してしまう。これこそが「ジレンマ」なのである。
最後に、「囚人のジレンマ」に正解はない。ビジネスに限らず、「意思決定」は決して簡単なものではない。