【13】経営理念に徹底的にこだわる

 

 規模の大小を問わず、多くの企業には「経営理念」がある。企業経営の根幹となる考え方であり、「経営哲学」などと言われることもある。あらゆる経営活動のよりどころであり、経営者の意思決定の指針である。具体的には、「企業は何のために存在するか」「事業の目的は何か」「我々の事業な何か、何であるべきか」といったことを表象する文言でもある。


 経営理念と言えば、パナソニック創業者である松下幸之助が次のような経営理念を遺している。

綱領
 産業人たるの本分に徹し社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与せんことを期す

信条
 向上発展は各員の和親協力を得るに非ざれば得難し 各員至誠を旨とし一致団結社務に服すること

私たちの遵奉すべき精神
 産業報国の精神、公明正大の精神、和親一致の精神、力闘向上の精神、礼節謙譲の精神、順応同化の精神、感謝報恩の精神

 パナソニックのホームページによれば、

今後もパナソニックは、経営理念に基づいて、社会の課題解決と発展に貢献し続け、新しい未来を切り拓いていきます。

と記されている。

 京セラ創業者の稲盛和夫氏も次のような経営理念を示している。

 全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること。

 技術者であった稲盛氏は昭和34年創業当時の経営理念を「稲盛和夫の技術を世に問う」としていた。ところが、創業2年目のある日、高卒の新入社員たちが待遇の改善を求め、団体交渉を求めてきた。団体交渉の内容は将来の昇給や賞与の保証であり、それが認められなければ全員会社を辞めるというものであったらしい。
 京セラの目標ともいえる当初の経営理念は「稲盛和夫の技術を世に問う」ということであるのに、若き新入社員たちが会社に求めているものは自らの生活保証であったわけである。戦後の極貧生活に耐え、兄弟の犠牲の上に大学まで行かせてもらった稲盛氏とすれば、会社を創業したばかりに、他人である従業員の生活まで保証しなければならないということには、さすがにやり切れない思いがあったという。

 そこで稲盛氏は「会社の目的とはいったい何か」を懸命に自問自答したという。その結果、会社経営の目的とは、自身の夢を実現することではなく、そこで働く従業員とその家族の生活を守ることだという気づきを得て、前述の経営理念を定めたという。これで「全従業員の心がひとつにまとまった」と稲盛氏は回想する。

 

 さて、どちらも大変立派な経営理念であり、これをみれば、組織の進むべき道が明確に示され、従業員が会社の事業や業務をどのように進めていけばよいのかが明確になっている。経営理念はまた、あるべき組織の文化、社風を育んでいく。さらには、他社に対して自社の経営姿勢を打ち出すという機能もある。
 もちろん、パナソニックや京セラは世界的大企業であり、このレベルの企業に入社できる人は優秀なひと握りの人間である。大多数の人は、規模だけを捉えれば、小さな会社に就職することになる。しかし、言うまでもないことだが、規模の大小で会社や組織の価値が決まるわけではない。規模は小さくとも、世の中には素晴らしい会社・組織はいくらでも存在するし、給料は安くとも、そこには日々生き生きと働く社員がいる。そうした会社は間違いなく、立派な経営理念があり、トップから末端の従業員までが日々の仕事において、その経営理念を見事に体現しているはずである。

 新社会人の人は自社の、学生の人は希望する企業・組織の「経営理念」にぜひ注目してほしい。そこにはいったい何が書かれてあるのかをぜひ見てほしい。その内容を自分なりに咀嚼してほしい。そこに自分自身の夢や目標と合致するものがあると感じることができれば、それに徹底的にこだわった社会人生活を送ってほしいと思う。そうすることで、同期のライバルたちに先んじることができるであろう。

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