【14】経営者視点で考える「給料」

 

 辞書によれば、給料とは、労働者が労働の対価として雇用主から受け取る金銭のことで、賃金、給与などともいわれる。ふつう就職すれば、毎月決まった金額の給料がもらえる。新入社員の場合は、原則として全員同じ金額の給料からスタートするが、多くの会社では2年目以降、徐々に給料に差がついていく。差がついてしまう理由はいろいろあるが、最も説得的な理由は、会社に対する貢献度が違ってくるからである。後輩社員の給料が先輩よりも高くなることは日常茶飯事で、同期入社であっても定年までの生涯賃金は数千万円の差がつくこともある。

 さて、仮に新入社員であるあなたの給料が額面で20万円だとしよう。月末が給料日だとすると、ふつう会社が決める出勤日に出社し、定刻まで働いていれば、あなたは月末に毎月20万円を得ることになる。ただ、新入社員なので、働くといっても、正式に配属が決まるまでは各種の教育研修やOJT(オンザジョブトレーニング)などに相当な時間を費やすことになる。それでも、月末には20万円の給料がもらえる。

 ここで、冒頭の「給料」の定義を思い出してほしい。給料とは「労働の対価」であるということだ。あくまで「労働」の対価が給料であるから、「労働」なしには給料はもらえないはずである。教育研修やOJTのことを「労働」と呼ぶかどうかは別として、上述の「会社に対する貢献度」という視点でみれば、新入社員に見るべき貢献はないのがふつうである。しかし、それでも(=貢献しなくても)会社は新入社員に給料を支払ってくれる。
 経営者から見れば、「それでも(=貢献がないのに)会社は給料を支払わなければならない」のである。会社や業種によってもちろん異なるが、社員一人に20万円の給料を支払おうと思えば、会社はその3~5倍の「粗利」を稼ぐ必要がある。つまり、20万円の給料を支払おうと考えた場合には、60~100万円の粗利を稼ぐ必要がある(会計上、粗利とは売上から原価を差し引いたもので、「売上総利益(粗利)」と呼ばれている)。一方、どんな企業でも、売上をあげるためには、必ず原価(材料費、労務費など)がかかる。製造業の場合で粗利率は、平均で20~25%だといわれている。
 以上の話を分かりやすくするために少し単純化すると、つまるところ、粗利で100万円を稼ぐには、売上で500万円必要になる。結果、新入社員ひとりあたり20万円の給料を支払おうと思えば、会社は毎月500万円、年間6,000万円の売上を余分に上げる必要があるのである。これが経営者視点での「給料」なのである。

 どうだろう、あなたは月間500万円、年間6,000万円をひとりで稼ぐことができるだろうか? 
 会計的には、会社はこれだけの金額を稼いではじめて、会社はあなたに月20万円の給料を支払うことができるのである。最近は年俸制の採用などで、昔ほどには年功序列的な給料の上昇は見られなくなったが、それでもキャリアを重ねるたびに給料は高くなっていくものである。人それぞれ人生設計があるので、いつまでも給料が20万円のままでは立ち行かない。しかし、会社が給料を上げる際に必ず考慮することは、「給料に見合った仕事をしてくれているか」、「給料に見合った貢献をしてくれているか」ということである。


 よく「給料が安い」とか「給料が上がらない」と不平を言っている人がいるが、不平を口に出す前に、「果たして自分は給料に見合った仕事をしているのか」と自らに問う必要があると思う。そして、もし自分はまだ給料に見合った仕事はできていないと感じているのであれば、どうすれば自分は給料に見合った仕事をすることができるのか、何をすればよいのかをよく考えてみる必要がある。あなたが新入社員であってもやることは全く同じである。新入社員として何ができるのかをいつも考えて、それを行動に結びつけることが重要なのは言うまでもない。

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