下請取引と交渉力(術)

 下請法に関するアドバイスの際に必ずいただくご質問は次のようなことです。

 「われわれ下請業者は確かに下請法で守られていることはわかりました。買いたたきや返品などがあれば法令違反になるということもわかりました。けれども、われわれ立場の弱い下請業者がそのようなことを面と向かって言いにくいのですが、どうすればいいのですか?」

 確かにそうです。大事な取引先(親事業者)に対して、あなたの会社のやっていることは下請法違反ですよ、などと真正面から指摘をすることはなかなか難しいと思います。そのようなことを言えば、最悪の場合、即座に取引を解消されるリスクがあるので、わかっていてもなかなか言い出せないことだと思います。

 そこでこのような場合の対応策について検討してみたいと思います。
 そもそも取引とは、契約に基づく取引開始から始まり、①個別の商品・サービスの発注、そして②納品、さらに③発注内容の変更・やり直し、最後に④代金支払い、という流れになっています。下請法はこの①から④までの過程で生じる取引上の問題に関して、親事業者に義務を課し、禁止事項を定めることによって相対的に弱い立場である下請事業者を守っています。

 このような取引の流れ自体は、下請取引に固有のものではなく、そうではない通常の取引(=下請法が適用されない取引)と全くかわるところはありません。すなわち、通常のビジネス交渉と同じく、交渉力の有無あるいは交渉術の巧拙が取引内容を決する重要なファクターであることがわかります。両者対等のビジネスの場合のような交渉力や交渉術が発揮できれば、下請取引の場合においても、100%譲歩せざるを得ないという不利な場面は減るのではないかと思います。

 何が言いたいかといえば、下請取引だからといって最初からヘビに睨まれたカエルのように諦めてしまうのではなく、交渉力や交渉術を磨くことによって少しでも取引条件を有利に傾けることはできないのか、ということなのです。
 最近は交渉力や交渉術に関する研究が非常に進化していますし、関連書籍なども数多く出版されていますので、交渉力や交渉術を磨いていくことはずいぶんとたやすくなりました。交渉力や交渉術についてここですべてを語りつくすことは到底できませんが、下請取引のトラブルを防止するためには、交渉力(交渉術)契約リテラシー、そして下請法の3点セットをうまく組み合わせ、利用していくことが有益だと思います。