なぜ下請法が制定されたのか

 戦後、わが国経済を支えてきたのは間違いなく、さまざまな業種に広がる中小企業です。とりわけ製造業は親事業者と下請事業者の下請取引構造が今日に至るまで日本経済の発展に大きく寄与しています。

 しかし、その下請取引構造においては多くの下請事業者が親事業者から不当な扱いを受け、とりわけ下請代金の支払遅延の問題が社会問題にまで発展していきました。もともと支払遅延等の問題については、すでに制定されていた独占禁止法が「不公正な取引方法」のひとつである「優越的地位の濫用」に該当するとして規制をしていましたが、そのような不公正な取引がなくなることはありませんでした。

 そこで、下請事業者が親事業者からの取引上の不利益を脱し、その持てる力を存分に発揮することができることを目的として、下請法(正式名称は、下請代金支払遅延等防止法)が昭和31年(1956年)に制定されました。つまり、下請法とは、独占禁止法の補完的役割を担う特別法として制定された法律なのです。

 下請法制定の理由はおおよそ次のとおりです。

 独占禁止法による優越的地位の濫用規制では、「取引上優越した地位を利用したものであるかどうか」や「不当に不利益なものかどうか」についての認定に非常に時間がかかることや、そもそも下請事業者が親事業者から被害を受けているという申告を行うことは期待しにくいこと、また、独占禁止法上の審判手続による解決には非常に時間を要していたことなどから、独占禁止法のみでは下請取引の問題について十分な成果があげられなかったことによります。