納期短縮の強要は許されるのか?

 下請企業では、親事業者から最初から無理な納期を設定されたり、受注後一方的に納期の短縮を求められることがあります。よくご相談のある典型例です。
 下請という立場上、このような要求はなかなか断りにくいというのが現状です。下請企業としては何とか決められた納期に間に合うように最善を尽くすのですが、あいにく納期遅延になると、親事業者から製品・商品の「受領拒否」や「下請代金の減額」を強いられるといったことが実際に発生しています。

 このような「受領拒否」や「下請代金の減額」という行為は、親事業者がしてはならない行為として下請法で定められています(下請法4条1項1号、同3号)。しかし、この下請法の規定は実に漠然としており、具体的にどのようなケースが禁止行為である「受領拒否」や「下請代金の減額」に該当するのかが一般の人にはわかりづらいという側面があります。そのため、多くの下請企業では、下請法という法律の存在はなんとなく認識していても、具体的に親事業者のどのような行為が下請法違反の可能性があるのかは、ほとんどご存じではないようです。

 下請法という法律とは別に、公正取引委員会は「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(以下「運用基準」といいます)というルール(通達)を定めています。
 運用基準とは、文字どおり、下請法運用上の留意点などを定めたものですが、この運用基準を丹念に読み込んでいきますと、親事業者のどのような行為が「受領拒否」や「下請代金の減額」に該当するかがわかります。

 運用基準には、次のような規定があります。

 ①「受領拒否」とは下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むことである。
 ②下請事業者の責めに帰すべき事由とは、
  ・下請事業者の給付の内容が「3条書面」に明記された委託内容と異なる場合
  ・下請事業者の給付に瑕疵等がある場合
  ・下請事業者の給付が3条書面に明記された納期に行われない場合

 この運用基準によれば、納期に遅れると親事業者は受領を拒むこと(受領拒否)ができますが、これには例外があり、次の場合には、親事業者は納期遅れを理由として受領を拒むことはできないと明記されているのです。
 ① 3条書面に納期が明確に記載されていない等のため,納期遅れであることが明らかでない場合
 ②下請事業者の給付について親事業者が原材料等を支給する場合において,親事業者の原材料等の支給が発注時に取り決めた引渡日より遅れた場合
 ③納期が下請事業者の事情を考慮しないで一方的に決定されたものである場合

 とりわけ上記③は、下請事業者側の事情を何ら考慮しない親事業者からの一方的な納期短縮要請や短納期の設定を許さないという趣旨であります。

 さらに、運用基準では、「違反行為事例」として、次のような規定を例示しています。

 ■無理に短縮した納期への遅れを理由とした受領拒否
  親事業者は,当初,発注日の1週間後を納期としていたが急に発注日から2日後に納入するよう下請事業者に申し入れた。下請事業者は,従業員の都合がつかないことを
理由に断ったが親事業者は下請事業者の事情を考慮しないで一方的に納期を指示した。そこで下請事業者は,従業員を残業させて間に合わせようと努めたが,期日までに
 納入できなかった。親事業者は,納期遅れを理由に,下請事業者が生産した部品の受領を拒否した。

 なお、運用基準では、納期短縮・短納期の強制に関して生じる「下請代金の減額」についても同様に違反行為事例を例示していますので、詳しくは運用基準をご確認願います。