【1】知識と知恵
既に言い古された感があるが、インターネット社会からさらにAI時代を迎え、早晩多くの職業が消滅すると言われる現在、弁護士や税理士など専門家といわれる人々が「知識」を売る時代は終焉を迎えた。難関試験を突破するために必死で覚えた「知識」がもはや売れなくなっている。これらの知識はすべてインターネットやAIが肩代わりしてくれる時代になってきている。しかも、インターネットやAIが売る「知識」の量は人間とは全く比べものにならないレベルである。
こうした時代を生き抜くためには、専門家も「知識」ではなく「知恵」を出す必要がある。「知恵」の出せない専門家はもはや「用なし」の時代がやってきた。昭和の歌謡曲に「昔の名前で出ています」という小林旭の歌があったが、令和の時代を迎えた今、「昔の名前」で出ることは難しくなった。何としても「知恵」を売らなければならない時代がやってきたのだが、そのことに気付いている人は意外と少ない。
何とか「知恵」を商売のネタにしたいのだが、「知恵」というのは、そのほとんどが誰かから教わる対象ではない。直截に「知恵」が身につく本など、どこにも売っていない。つまり、ベースとなる様々な知識見識を身につけたうえで、自分で「出す」ものが「知恵」なのである。
昔から「知恵」は「出す」ものと言われてきた。かの土光敏夫氏は「知恵ある者は知恵を出せ、知恵無き者は汗を出せ、それも出来ない者は去れ」と言い、それについて松下幸之助氏は「わしなら、まず汗を出せと言う。汗のなかから知恵を出せ、それができない者は去れと言う。汗のなかからホンマもんの知恵が出るんやで。生きた知恵は汗のなかから出るもんや」と喝破した。含蓄のある言葉である。まだまだ修行が足りない。